落照の獄

 十二国記の新作短編。本屋でふと見た「小野不由美」の文字に惹かれてyom yom購入。丕緒の鳥の時もこうだったなぁ。
 好き嫌いが恐ろしく分かれそうな短編だが、私は好みだった。
 毎度ながら、感想を書くのは得意でないが、覚書程度に。

 舞台は2001年刊「華胥の幽夢」最後の短編「帰山」で風漢と利広が出会ったまさにその頃の柳。
 16件23人もの人を主に金目当てに殺害した(前科も数度アリ)男を裁く、現代日本にたとえれば最高裁の裁判官が主人公。
 死刑が法に定められているが、現王の意向があり、死刑はここ100年以上科されていない。しかし、治安の悪化や男の罪業から世論は死刑を望んでいる。一方、国の高官には慎重論が根強く、終身刑を科すべきだとする。
 裁判官の妻は審理に臨む夫に死刑が当然だろうと問うが、夫は情だけでは刑は決しないという。妻は、夫は自分を馬鹿にしているのだと言い、自分にも道理が分かると言うが、夫は、妻がわかっているという「道理」は。自分が正しいと思っている「道」に基づいた理でしかないと思っている。
 死刑を禁じてきた王は、このところ明らかに政に対する興味を失っており、今回の裁判で死刑を下すか否かは裁判官次第だと、王はこれまでの見解を捨ててしまっている。地裁、高裁は死刑判決を言い渡している。
 三人の裁判官(厳密にはそれぞれ役割が違うのでこの言い方は正しくない)は、終審での判決をどうすべきか、それぞれ悩んでいる。

 と、まぁ、現代日本に置き換えても成立する物語。別に十二国記でやらなければならない話ではない、という意味でまず好き嫌いが分かれるだろう。また、ストーリー自体、「陽」ではなく「陰」の雰囲気の中で進んでいき、登場人物の感情にも明るいところはないと言っていい。「楽しく」読む話とは言えないだろう。メインのキャラクタたちも全く出て来ないし。
 けれど、善政を敷く限りは王はその命を永らえ、国は栄えて妖魔が人を襲うこともないが、失政に陥っていけば治安は悪化し妖魔が人を襲い天候も荒れて作物は取れなくなり、王は死んでその責任を取る、そうやって国が動いていく十二国記の物語の中で、主人公が「国が滅びていく」その中にいて、それを国の政府の中で見て肌で感じていた話というのはとても興味深い。滅んでいく国を冷静に眺めている人がいる裏側で、実際に沈んでいく国の中にいた者がいるというのは、当たり前のことだけれど小説の中では無視されがちなこと。「落照」でそれが描写されたことによって、十二国記という世界はよりいっそう深みを増したと思う。
 沈んでいるという実感があるのに、現状を打破できない、その感覚にぞくりとさせられた。

 むしろ、十二国記を知らない人の方が純粋に楽しめたかもしれないね。